大阪大学での研究開始(2016年4月)後に出版した論文の作成背景について記します。

 

Ichikawa et al., Journal of Cell Science, in press.
“Vinexin family (SORBS) proteins play different roles in stiffness-sensing and contractile force generation”

名工大時代に京大の市川さん・木岡先生からお声かけいただき、細胞が発生する力の定量化についてお手伝いをさせていただくことになった。名工大荒木君(=阪大出口研飲み会準レギュラー)が頑張り、力アッセイでたくさんデータをとる。しかし我々の力アッセイは、スループットにおいて他(蛍光ビーズを用いたtraction force microscopyやマイクロピラー法)との違いを出すことができる、そしてハイスループット化の実現は単なる作業効率の向上という意味に留まらず新しい展開をも創出する・・・と謳っておきながら、大量のデータが取れるようになったもののそれを処理する方法が不十分でしばし手を付けられない状態が続く。停滞感が漂いつつある頃、市川さんが、MRLCリン酸化の免染で差が出たのでモチベーションが上がってきた!と仰るので、気合いを入れ直す。市川さんに基礎工に通っていただき、松井君とともに自動解析プログラム作りにハードワークで取り組んでいただく。出口も監督の立場でヴィジョンを示した(途中何度もsemi-automaticな解析へと妥協しかける二人に「セミオート、ダメ、ゼッタイ!」など)。ある程度納得できるプログラム(今回はFFTベース)ができて解析したところ、細胞が発生する力の大きさと免染データの間に相関が出て喜ぶ。論文掲載はもとより様々な点で勉強になり、このような貴重な機会を与えていただいた木岡先生と市川さんに深く感謝しています。市川さんがrevision中に留学に旅立たれたためまだお祝い会を開けずにいますので帰国時に是非!

 

Fukuda et al., Development, Growth & Differentiation, accepted.
“Cellular force assay detects altered contractility caused by a nephritis-associated mutation in nonmuscle myosin IIA”

日本発生生物学会の機関誌DGDの、物理・数理・工学的要素を含むトピックスを扱う特集号において、我々の「細胞の力比べ」アッセイを発生分野の研究者に周知できる機会と捉え、福田君のこの2月提出の卒論の内容で投稿。卒論と同時並行でウエスタンなどは松井君が補足。画像解析プログラムは市川さん・木岡先生との共同研究で作成したもの。遺伝子の変異など何らかの分子にperturbationが加わったときに、結果として細胞のendogenousな力が上がるのか下がるのか判別するアッセイを用いて解析を行う。今回は非筋ミオシンIIAという細胞収縮力に直結する分子(遺伝子MYH9)を対象としており、「当然力は変わるのでは」と思われそうである。しかし今回、変異の入る位置に応じて力が下がる場合とそうでない場合があることが分かった(細胞形態的には差がないにも関わらず)。この細胞レベルでの差は、ミオシンの(minifilamentsへの)重合が維持される点変異であるかどうかに依存する、と推測されるものであった。一般に(非筋ミオシンIIAとは異なり)力とは無関係そうに見える分子でも、その変異や発現抑制は細胞発生力の変化を引き起こしうる【そして、その「力の変化の結果」として、細胞間接着や細胞・基質間接着由来のシグナルも質的に変わりうる】ことがわかってきている。従って、我々のアッセイ技術は(内在性の力という分かりづらい要因による)メカノシグナルの関与の有無を判別する際に有効活用できるかもしれない。

 

Deguchi et al., Journal of Biomechanical Science and Engineering, in press.
The opposite mechano-response of paxillin phosphorylation between subcellular and whole-cell levels is explained by a minimal model of cell-substrate adhesions

JBSEでメカノバイオロジーの特集号を組むということで、論文投稿のお声かけを受ける。最初、大石君のかつての卒論AFMデータで論文を書き始めたが、途中で気が変わり(追加実験によって大きく発展できるのではないかと夢想し始める)、大石データはやめて代わりに齋藤君の前の論文(Experimental Cell Research, 327(1), 1–11, 2014)で使わなかったユニークな実験での免染データに基づいて論文を書き始める。松井君がとっていたウエスタンのデータを見せてもらうと、免染と結果が逆であることに気づいて困る。具体的には、細胞内の張力が増えると、免染ではpaxillinリン酸化レベルが落ちるが、ウエスタンでは上がる。しかし粘ってしばらく考え、focal adhesions(焦点接着斑)では確かに逆になるのがもっともらしいと気づくに至る。それで意気揚々と松井君と古川君にお茶時間に説明して二人から褒められる。このアイディアはユニークであり、分子生命と物理の両視点をもちそれぞれへの深い理解を追究しているからこそ出たものである、と語って自分たちを励ます。他の派生したアイディアも生まれたために、将来別の分子を対象とした新しい話しとして改めて論文にしたいと決意する。レフリーからの指摘に対するRevisionの追加計算はあつき君が手伝ってくれた。論文オーサーシップとしては謝辞の範囲内だが、それでも名前が謝辞欄に掲載されることを思いの外喜んでくれて、素直でいい子だなと。ほんなら修士にいかんかいと言う。

 

Yokoyama et al., Current Protocols in Cell Biology, in press.
“Microcontact peeling: A cell micropatterning technique for circumventing direct adsorption of proteins to hydrophobic PDMS”

細胞外マトリクスのフィブロネクチンに関する研究で有名なNIHのKenneth Yamada先生からお声かけいただき、細胞マイクロパターニングの独自方法としてプロトコル論文を投稿することになった。オリジナルの内容のほとんどは既にPLOS ONE (9(7), e102735, 2014)で発表したものである。この技術は横山君が見つけた。彼いわく、細胞研究の新参者だったので大胆なことをしたから見つけた、と。具体的には、経験者だとせっかく親水化処理した基質の上に細胞やタンパク質ではない異物(パターン化用マスク)を置くようなことはしないと思うが、彼は置いた、と。細胞培養をするためにその異物を取り除いた結果、親水化された薄膜がはがれて、その部分だけ細胞が接着しづらいことに気がつく。と言うことは、異物の形状を適当に変えると、その部分だけで選択的に細胞の接着を抑制できる(実際には疎水部を親水性に戻すためにPluronic処理も追加)。物理的接触によって酸化皮膜をはがすことが肝の細胞パターニング方法であることから、マイクロコンタクトピーリング(Micro-contact peeling, µCPe)法と名付ける。これは最も有名な細胞マイクロパターニング技術の一つ、Whitesidesらが開発したマイクロコンタクトプリンティング(Micro-contact printing, µCPr)を真似たネーミングである。PLOS ONE論文では査読の過程でµCPrとの違いを厳しく問われた経験を踏まえ、今回の論文では新たに有限要素解析のデータを追加して違いを説明しつつ、論文タイトルにおいてµCPeのアドバンテージを明示した。

 

Yokoyama et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, 482, 975-979, 2017.
“New wrinkling substrate assay reveals traction force fields of leader and follower cells undergoing collective migration”

細胞収縮力アッセイについてBBRCに投稿したもの。このアッセイについては他にも幾つかまとまったデータがあるためにそれらを早く論文にまとめたいが、ひとまず今回の論文では方法論の詳細を中心に速報誌で発表(本方法自体は下記の坂根さん・佐々木先生との共同研究で既に使用しているが)。方法論以外の内容は現段階では現象の記述だけである。ただし細胞集団運動におけるリーダー細胞の性質など、考えさせられるものである。MTD-1A細胞(前の徳島大学との共同研究で利用)とMDCK-II細胞では、同じ上皮細胞でも細胞集団運動時の力学的性状が異なることを観察した。

 

Ohishi et al., Journal of Micromechanics and Microengineering, 27, 015015, 2017.
“Tensile strength of oxygen plasma-created surface layer of PDMS”

力学系の専門誌に発表。バイオエンジニアリングの様々な分野でよくPDMSが使用される。その親水化のために酸素プラズマ処理をしばしば使用するが、その結果PDMS表面がもろくなり、少し引っ張るとひび割れが生じるのを利用者は知っている。これは実験、特にイメージング時において支障が出る。これはPDMS表面に薄くてもろい酸化皮膜が形成されることが原因であり、その力学特性を把握したいというモチベーションがあった。野田君が機械工作で装置を自作して顕微鏡下で酸化皮膜のみの破断ひずみを求めることに成功。別途、大石君が工夫しながらAFMを用いて酸化皮膜の厚さを求めて、両者を合わせて酸化皮膜の引張強度を求めた。これまでにPDMSのバルクとしての諸性質は散々調べられてきたが、表面にできるごく薄い酸化層の力学特性は今回初めて報告できたのではないか。改訂版での追加実験は主に松井君が担当。そこで低分子シロキサンの悪さを思い知る。

 

Deguchi, Journal of Biomechanical Science and Engineering, 11(4), 16-00414, 2016.
“A possible common physical principle that underlies animal vocalization: theoretical considerations with an unsteady airflow-structure interaction model”

機械学会バイオエンジニアリング部門のオフィシャルジャーナルJBSEがオープンアクセスであり、下記事情もあり、自由に見てもらえるために投稿したもの。裏声(左右一対の声帯が衝突しないまま開始される自励振動と定義)が生じる力学メカニズムについて、もともと基本的なことはDeguchi, Hyakutake (Journal of Biomechanics, 2009)とDeguchi (PLOS ONE, 2011)で発表済みである。しかしこれらの論文は残念ながらこれまでのところ特に米国からほとんど引用されていない。その理由は、主には発声力学分野の権威と言えるIngo Titze(一度お会いしたことがあり、予想通り熱心で温かい方であった)の説と相容れないためではないかと邪推。力学メカニズムについて詳述した我々の最初のPLOS ONEの方の論文は、最初に発声力学関連の論文がよく出版されていた別の専門誌に投稿したが、レフリーからの納得しかねるコメントに基づきリジェクトを受けていた。しかしそれらの過去の解析的な声帯自励振動研究は、ほとんどのもの(Titzeの説も含めて)が定常ベルヌイ流を仮定している。しかし我々の論文では、裏声のように高い振動数の発声では定常流の仮定が不適切であると述べ、非定常流が本質的な役割を果たす自励振動開始モデルを提示していた。上記我々の二つの論文はそれなりに目に付くジャーナルに掲載されながら、完全に無視されている状況であったために、次の手を打った方がよいと考え、ヒト発声の研究分野に留まらず多くの人に見てもらおうと、広く他の動物の高い振動数での発声(昨今は脳科学とマウスの超音波発声の関係性が注目され始めた状況も鑑み)への適用性についてこの論文で議論。前の二つの論文(近代バイオメカニクスの父であるY.C. Fung先生の解析的研究を意識して書いた自分のここまでの代表作)に比べて本論文は内容的に劣るが、Titze説の問題点を改めて長文で記した。

 

Sakane et al., Molecular Biology of the Cell, 27(20), 3095-3108, 2016.
“Conformational plasticity of JRAB/MICAL-L2 provides “law and order” in collective cell migration”

細胞生物学会大会で細胞収縮力アッセイについて初めて外部発表したところ、徳島大学の佐々木卓也先生が関心をもってくださる。ちょうど同じセッションで私の少し前に発表されていた佐々木研の坂根さんのご研究をお聴きし、まさに私たちのアッセイが有効活用できるのではないかと感じたばかりだったために、お声かけを受けて喜ぶ。と言うのは、もともと工学バックグラウンドの私たちが細胞生物学で勝負するポイントの一つを共同研究を通して得たいと考えていたため。幸運にも研究面以外でも、佐々木先生と坂根さんとお知り合いになれて、食事会など楽しい経験もたくさんさせていただいた。私が阪大に着任した際には胡蝶蘭まで送ってくださった。本論文掲載後は関連機関からプレスリリースされた。私たちは少しお手伝いできただけだが、深く感謝。