テラヘルツ電磁波パルスとは?



 最近、科学技術立国再生に向けた国際競争力強化のため日本が今後10年以内に重点的に開発に取り組む国家基幹技術10大戦略が提示された(2005年1月9日付全国紙)。この内の1つとして、『電磁波のテラヘルツ波による計測・分析技術』が取り上げられており、その狙い・効果には『テラヘルツ波の透過性を生かした病理組織診断、郵便物内の麻薬・爆薬の識別』が挙げられている。また、総務省テラヘルツテクノロジー動向調査委員会による最新の報告書(2005年3月17日)では、テラヘルツ関連産業で2兆円を超す経済波及効果が今後10年で期待されると予測しており、これからのテラヘルツ・テクノロジーより目を離せない(図1)。 


図1 テラヘルツ・テクノロジー(テラヘルツ・テクノロジー・フォーラムHPより)

 テラヘルツ波(周波数 = 0.1〜10 THz;波長 = 30〜3000 um)は、ちょうど光波と電波の境界に位置し、これまで良質なレーザー光源や高感度検出器の開発が遅れていたため、ほとんど研究が行われていない未開拓電磁波領域であった。しかし、近年の安定な超短パルスレーザーの出現と超高速光技術の発達により、パルス状のTHz波(以下THzパルスと略す)が比較的容易に生成・検出できるようになってきた。THzパルスは、光波と電波の境界に位置するということから、その両者の性質を有する『光電波』とも言うべきユニークな電磁波である。具体的には、(1)自由空間伝搬、(2)非金属物質(例えば、プラスチック・紙・ゴム・半導体・食品・生体ほか)に対する良好な物質透過特性、(3)非侵襲・安心安全、(4)コヒーレント・ビーム、(5)超短パルス、(6)広帯域スペクトル、(6)低散乱、(7)イメージング測定や分光測定が可能、といった特徴を有する。また、最近、気体分子・生体分子・ビタミン・糖・医薬品・農薬・禁止薬物・爆発物をはじめとした様々な物質が、テラヘルツ領域において固有の吸収スペクトル(指紋スペクトル)を示すことが明らかになっており、このTHz指紋スペクトルを利用したテラヘルツ時間領域分光法がテラヘルツ計測・分析技術の重要計測手段として期待されている。
 当研究室では、このようなTHzパルスの特徴をいかした新規計測手法の開発及び応用計測に関する研究を行っている。


図2 電磁波周波数(波長)マップとテラヘルツ電磁波パルス

戻る