テラヘルツ電磁波パルスの発生と検出

テラヘルツ発生
光伝導アンテナの利用(THz-PC発生)
非線形光学結晶の利用(THz-NLO発生)

テラヘルツ検出
光伝導アンテナの利用(THz-PC検出)
電気光学結晶の利用(THz-EO検出)

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 光伝導アンテナを用いたテラヘルツ電磁波パルスの発生(THz-PC発生)

 光伝導(PC)アンテナの構造は図1に示すように、光伝導膜上(光が入射した時、電子と正孔を生成する)に金属で中央に出っ張り(アンテナ)を持つ平行伝送線路をつけた構造となっている。金属部分は電極の役目も担っており、直流バイアス電圧に接続されている。レーザーパルス光が入射していない場合、アンテナ間ギャップは絶縁されており(キャリアが存在しない)、電流は流れない。しかし、レーザーパルス光でギャップを照射すると、光伝導膜が励起され、光吸収によるキャリアー(電子と正孔)が瞬時的に生成される。アンテナ間には直流バイアス電圧が加えられているため、発生したキャリアが瞬時にギャップ間を移動し、瞬時電流が流れる。結果的に、この瞬時電流の時間微分に比例したテラヘルツ電磁波パルスが双極子放射として発生する。放射されるテラヘルツ電磁波パルスの周波数スペクトルはアンテナ形状に依存する。


図1 THz-PC発生

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非線形光学結晶を用いたテラヘルツ電磁波パルスの発生(THz-NLO発生)

 近赤外フェムト秒モード同期パルスレーザー光の周波数領域における描写は、ある周波数(波長800nmの場合375THz)を中心として数THz以上のスペクトル幅内に位相が同期した多数の縦モード光が存在し、各縦モード間の周波数間隔(f0)は一定でモード同期周波数(またはパルス繰返周波数)と一致している。このようなフェムト秒パルス光を非線形光学結晶(例えば、ZnTe結晶)に入射すると、非線形光学効果の1つである差周波発生がおこり、各縦モード光同士の差周波信号が生成される。その結果、隣接した縦モード間では周波数f0、2個隣の縦モード間では2f0、3個隣の縦モード間では3f0、・・・・、n個隣の縦モード間ではnf0といった具合に、フェムト秒パルス光と同程度のスペクトル幅を有する差周波信号の集まりがTHz周波数帯に生成されることになる。すなわち、フェムト秒パルスレーザー光のスペクトルが、テラヘルツ領域に周波数シフトすることになる。このようにしてテラヘルツ領域に生成された縦モード光は、フェムト秒パルス光と同様に位相同期しているので、テラヘルツ電磁波の超短パルスが発生することになる。


図2 THz-NLO発生

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光伝導アンテナを用いたテラヘルツ電磁波パルスの検出(THz-PC検出)

 THz-PC検出では、THz-PC発生同様の光伝導アンテナを用いるが、電極に接続した直流バイアス電圧が電流計になっている点が異なる。フェムト秒パルスレーザー光によってアンテナ間ギャップを照射すると、光励起キャリアが生成する。光励起キャリアが生成されてもテラヘルツ電磁波パルスが入射されていない状態(あるいはテラヘルツ電磁波パルスとプローブ光が時間的に重なっていない状態)では、ギャップ間に電位差が生じていないため、電流は流れない。しかし、テラヘルツ電磁波パルスがプローブ光と重なるタイミングで入射すると、テラヘルツ電磁波パルスの強度に比例した瞬時電位差がギャップ間に発生し、瞬時電流が流れる。テラヘルツ電磁波パルスとプローブ光の重なるタイミングを連続的に変化させていった時の電流値の変化からテラヘルツ電磁波パルス電場の時間波形を測定する。


図3 THz-PC検出

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電気光学結晶を用いたテラヘルツ電磁波パルスの検出(THz-EO検出)

 電界を加えた電気光学結晶(EO結晶、例えばZnTe結晶)中を光が通過すると、電気光学効果の1つであるポッケルス効果により、複屈折を受ける。複屈折とは、結晶軸に対して平行な偏光成分を持つ光(常光線)と垂直な偏光成分を持つ光(異常光線)の屈折率が異なることで、例えば45度偏光の直線偏光は楕円偏光化する。ポッケルス効果では、この複屈折量が印加する電界に依存する。THz-EO検出では、THzパルス電場がポッケルス効果を引き起こす印加電界の役目を果たし、プローブ光(直線偏光)の偏光状態をテラヘルツ電場強度の時間的変化に比例して変化させる。THz-EO検出の基本構成は、図4のようになっている。


図4 THz-EO検出の実験配置

 今、プローブパルス光とTHzパルスの重なるタイミングが連続的に変わっていくような状況を考える(図5)。プローブ光は偏光子で直線偏光(垂直方向)にされている。まず最初に、EO結晶直後(1/4波長板前)のプローブ光の偏光状態を考える(表の1段目)。THz電場がゼロのタイミング(1)では、EO結晶内では複屈折が生じていないため、プローブ光は直線偏光のままである。しかし、タイミング(2)から(4)に向かってテラヘルツ電場がマイナスに増大し(すなわち、負の複屈折量が大きくなり)、直線偏光が楕円偏光化していく。タイミング(4)から(6)では複屈折量が小さくなっていくので、直線偏光に戻っていく。次に、テラヘルツ電場がプラスに増加していくと再び楕円偏光化していくが、正の複屈折率であるため、楕円偏光の回転偏光が反対になっていることに注意。このようにして、テラヘルツ電場の時間変化に比例してプローブ光の偏光状態が変化するので、その偏光状態を偏光解析することにより、テラヘルツ時間波形の測定が出来る。しかし実際の複屈折量は非常に小さい(10の-4乗から-5乗のオーダー)。そこで高感度化を達成するために、1/4波長板によって、プローブ光の偏光状態を直線偏光から円偏光に変換する(表の2段目)。そして、複屈折量による円偏光の歪みをバランス検出によって高感度測定する。すなわち、偏光プリズムによって、円偏光をp成分(垂直偏光成分)とs成分(水平偏光成分)に分離し、バランス検出器でその強度差信号を検出する。完全な円偏光の場合には、その差はゼロであるが、ちょっとでも円偏光に歪みが生じると、バランス信号がゼロからずれ、そのズレをロックイン増幅器を用いて高感度検出する。


図5 THzパルスとプローブパルス光の時間的重なりとプローブ偏光状態

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