FRAP法(光褪色後蛍光回復法)は,細胞内分子の組み換え動態を定量評価するための有力な手法です.これを用いて,環境変化に伴う細胞内部構造の適応的なリモデリング過程を解析することが可能になります.当研究室では,このFRAP解析に数理科学(連続体力学・空間統計学)を導入し,さらに遺伝子工学的手法と組み合わせることで,従来法では得られなかった分子動態情報を定量化する技術の開発に取り組んできました.

今回,新たに空間統計学に基づく逐次ガウスシミュレーション法を導入することにより,一つの細胞内全体にわたる分子動態の空間分布を推定する新手法を開発し,論文発表しました.本手法により,これまで点的評価のみがなされていたFRAP測定を,細胞内全体の動的マッピングへと拡張することが可能となりました:Okabe et al., Biophys. J., 2025解説

 

FRAP法に関連して,これまで当研究室では,以下の研究展開を行ってきました:

– 遺伝子工学の導入により,タンパク質のドメイン単位で結合・解離速度を測定する手法の開発(Saito et al., Exp. Cell Res., 2021

– 連続体力学の導入により,従来の拡散・反応モデルに加えて,細胞内構造物の変形および移流効果を定量化する解析手法の構築(Saito et al., Biophys. J., 2022論文解説ジャーナルブログ; Saito et al., PLoS ONE, 2022

– 長時間FRAP測定を可能にする解析モデルの改良(Nakashima et al., bioRxiv

-これらのマルチモーダルFRAP測定に関する解説論文(Saito et al., JBSE, 2023)・プロトコル論文(Saito et al., Current Protocols, 2023; Saito et al., Methods in Molecular Biology, 2023)の発表