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当研究室では「計測 × 数理・物理・統計・情報学 × 分子生物学・遺伝子工学」 を組み合わせた学際的手法に基づき、階層的で複雑な生命現象の理解、新しい生命物理学の開拓、老化調節などの医療応用を目指した研究に取り組んでいます。
主な研究課題
1. 物理メカニズム:生命現象の物理的な理解
生命は、細胞から個体、さらには「こころ」に至るまで、非常に複雑な現象です。しかし、その背後には共通する物理法則や数理的な原理が存在すると考えられます。私たちの研究室では、細胞の形や力、運動、老化などの生命現象を、力学、熱力学、統計力学などの物理学を基盤として理解することを目指しています。さらに、分子生物学や進化生物学の知見も取り入れながら、異なる階層の生命現象を一つの視点で捉える研究を進めています。
近年は、細胞だけでなく、人間の感情や意思決定、負の感情パターンなどの高次生命現象についても、物理学や情報科学の考え方を応用した解析に取り組んでいます。階層を問わず生命システムに共通する普遍的な原理を見いだすことを目指しています。実験、数理モデル、シミュレーションを組み合わせることで、生命現象を個別の事例としてではなく、統一的な法則として理解することが本研究の特徴です。
最近の関連論文
Ueda et al., BioSystems 257, 105594, 2025.
Ding et al., eLife, 105236.1, 2025
Ueda et al., Inter. Biol. 2024
Ueda et al., J. Biomech. 2023.
Ueda et al., Sci. Rep. 12, 14466, 2022.
Huang et al., Am. J. Physiol. Cell Physiol. 320, C1153–C1163, 2021.
Saito et al., Biomech. Model. Mechanobiol. 20, 155-166, 2021.
Okamoto et al., Biomech. Model. Mechanobiol. 19, 543-555, 2020.
2. 分子メカニズム:細胞はどのように環境を感じ、老化や病気へ向かうのか
細胞は、周囲の環境からさまざまな情報を感じ取り、自らの状態を変化させています。力学的な情報を得る仕組みはメカノセンシングと呼ばれ、発生、組織の維持、老化、がんなど多くの生命現象に関わっています。私たちの研究室では、細胞の中でどの分子がはたらき、力の情報を遺伝子発現や細胞の運命へと変換しているのかを明らかにしています。
この研究は、老化や線維化などの病態を理解し、新しい治療法や創薬標的を見つけることにもつながります。
最近の関連論文
Bertocchi et al., Cell Commun. Signal. 2026.
Chantachotikul et al., Cell. Signal. 127, 111616, 2025. プレスリリース
Liu et al., Mol. Biol. Cell 33, ar10, 1-11, 2022.
Kang et al., Mol. Biol. Cell 32, ar28, 1-12, 2021.
Kang et al., FASEB J. 34, 8326-8340, 2020.
Fujiwara et al., J. Cell Sci. 24, 390-402, 2019.
Matsui and Deguchi, Am. J. Physiol. Cell Physiol. 316, C509-521, 2019.
Ichikawa et al., J. Cell Sci. 130, 3517-3531, 2017.
Sakane et al., Mol. Biol. Cell 27(20), 3095-3108, 2016.
3. 計測・解析法の開発:生命現象を定量化する新しい技術
生命現象を理解するためには、それを正確に測る技術が欠かせません。私たちの研究室では、新しい実験装置や画像解析、AI・機械学習を組み合わせ、細胞の状態や力を高精度に測定する技術を開発しています。例えば、細胞が発生する力を簡単に測定する技術、細胞画像から力学状態を推定するAI、細胞内の代謝変化・分子拡散を解析する技術などを開発しています。
これらの技術は、生命科学だけでなく、創薬や医療、再生医療への応用も期待されています。
最近の関連論文
Okabe et al., Biophys. J. 124, 4205-4214, 2025.
Li et al., PLOS Comput. Biol. 20(8), e1012312, 2024.
Hamaguchi et al., Sci. Rep. 12, 13818, 2022.
Saito et al., Biophys. J. 121, 2921-2930, 2022.
Li et al., Commun. Biol. 5, 361, 2022.
Saito et al., Exp. Cell Res. 404, 112619, 2021.
4. ソフトマター物理:細胞や生物の集団運動を理解する
生物は、一つひとつの細胞や個体が単独で動くだけでなく、多数が集まることで新しい性質を生み出します。例えば、細胞集団の移動、微生物の遊泳、魚や鳥の群れ、人工マイクロロボットの協調運動などです。私たちは、このような集団現象をソフトマター物理やアクティブマター物理の立場から研究しています。
流体力学、材料力学、数理モデル、シミュレーションを組み合わせることで、多数の個体が互いに影響しながら秩序だった運動を生み出す仕組みを明らかにしています。生命だけでなく、磁性粒子やマイクロロボットなど人工システムにも研究対象を広げ、新しい集団制御法の開発にも取り組んでいます。
最近の関連論文
Tokoro et al., Physical Review Fluids 11, 023102, 2026.
Kawai et al., Soft Matter 16 (28), 6484-6492, 2020.
Matsunaga et al., Nat. Commun. 10, 4696, 2019.
4) 裏声・動物発声の力学メカニズム
研究室では、人間や動物の発声を、力学・流体力学・音響学の観点から研究しています。声帯の構造や物性、肺からの呼気、気道内の共鳴を取り入れた数値モデルを構築し、声帯結節などの発声異常が声に与える影響を解析してきました。特に、声帯が接触しなくても振動が続く裏声の仕組みに注目し、喉頭内の空気の流れによって声帯振動が自発的に生じる新しい力学モデルを提案しています。現在は、この仕組みが人間だけでなく、鳥類や哺乳類にも共通する可能性を調べ、発声の進化と多様性を支える普遍的な原理の解明を目指しています。
代表論文
Deguchi and Kawashima, J. Biorheology 38, 1-7, 2024.
Deguchi et al., J. Voice 25, e255-e263, 2011.
Deguchi et al., PLoS ONE 6, e17503, 2011.
Deguchi et al., J. Biomech. 42, 824-829, 2009.
Deguchi et al., Ann. Otol. Rhinol. Laryngol. 117, 876-880, 2008.↑